ジコカイジ

self-disclosure‐‐‐乳がんのこと、仕事のこと、生き方のことを書いていくchisa/千祥のブログ。

あの日、私に乳がんの手術跡を見せてくれた人へ

前回の記事で、2001年 9月11日に乳がんの告知を受けたことを書いた。

 

exgirlfriend.hatenablog.com

 

9月11日からは怒涛の日々。この週には、セカンドオピニオン慶應の近藤誠のところへ行くと言ったら、絶対10年後生きていないから!と怒声を浴びせられ、その翌週には近藤外来から神奈川県のO病院A医師のもとへ送り込まれ、9月30日には入院していた。告知~セカンドオピニオン~転院~さらに転院(というか手術と抗がん剤放射線のダブル主治医体制の確立)~手術、というジェットコースターに乗ったかのような20日間だった。

 

当時のO病院は、まだ乳腺センターもなく、かろうじて乳腺外科?と名乗っていたかと思う。乳房温存療法黎明期であり、大げさではなく、日本全国から温存療法を希望する女性が詰めかけていた。私もそのひとりだった。

 

A医師は、近藤医師と組んで、日本で最初期に温存手術をした医師のひとりといわれており、2000年代初頭にはすでに多くの術例を持っていた。私が待合室で出会った女性は、10年ほど前に温存手術を受け、最近になって乳房内再発を起こし全摘出をすることを勧められていた。そしてその人は、乳房再建するか否かを悩んで、何度もA医師の説明を受けに足を運んでいたのだった。2001年当時、乳房再建には保険は適用されておらず、実費を捻出できるかどうかで悩んでいる患者も多かった。温存手術をしたくてここまで来たけれど不安を払拭できないと私と、再建するか否かで答えを出せない人。待合室の長椅子の隣同士に座ったふたりは、長い待ち時間にお互いの物語を話した。

 

 

私は、絶対にくりぬき法での温存手術を受けると決めて、慶應の近藤外来からO病院のA医師のもとに来たものの、不安を払しょくしきれないでいた。くりぬき法で手術したい、という強い希望でここまで来たものの、本当のところはどうなるのか?ということがわからなかったからだ。その人は経済的なこともあるけれど、そこまでして再建するかどうかについて、ずっと答えを出せずにいた。しかしその日にA医師に返事をしないといけない、タイムリミットだったようだ。そんないきさつをポツリポツリと話してくれたその人が、急に、声のトーンを上げてこう言った。

 

いま決めたわ。私、再建手術受けることにする!再発したこと、全摘することは凄いショックだけどね、でも、朝起きたとき、ブラジャーに自分の胸があるだけで、私、立ち直れると思うのよ。

 

34歳の私は、そのきっぱりと、晴れ晴れとした宣言の目撃者となった。その女性は、いまの私くらいの年齢だったと思う。年齢はまったく関係ないんだ!ということが、心に響いた。女性として、ひとりの人間として、がん治療に向き合い、そして術後の生活を乗り越えていくその人の決心に同意した。

 

そののち急に、ねえちょっと。と、その人が私を女子トイレに引っ張っていった。温存手術するんだよね?どんなだかわからないから怖いんだよね?と言うやいなや、ブラウスをまくり上げて、彼女の温存した乳房を私に見せてくれたのだ。乳房の曲線に沿ってすーーーと一筋の細い線が走っていたが、乳房はフォルムを完全に留めていた。

 

大阪から逃げてきたKさんも、私も、見ず知らずの女性が見せてくれた手術痕のおかげで、迷いなく手術に臨むことができた。Kさんの場合は大阪から逃げるきっかけを、だけれど。

 

Kさんのことはこちらの記事参照。

exgirlfriend.hatenablog.com

 

 

がんになってから、さまざまな出会いがあった。なかでも、O病院の待合室で出会った、名も知らぬ人の親切に今でも感謝している。あの方、いまどうされているだろう。お元気だろうか。気が付かないだけでO病院ですれ違ったりしているのだろうか。

 

本当に有難う。

 

 

 

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